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ファッションに学ぶ。小売・流通に必須となる「タイムレス」のコンセプトとは?カギとなるのは「絆」
以前の記事で触れたように、人と人、人とコト、人と環境がつながるための新たな消費スタイル「絆消費」が広がっています。その前の主たる消費スタイル「個性のための消費」で伸びたファッションマーケットではどのような変化が起きているのでしょうか。ファッション企業の対応と消費者の反応から、小売・流通業が大事にすべきことは何なのかを読み解いていきましょう。
トレンド追随のファッションが淘汰される時代
そもそもファッションとはどういう意味なのでしょうか。
狭義では「服飾」と訳されますが、現在は広く解釈されており、生活者や社会のムード(※1)を形式化、デザイン化することを示すことも多くなりました。
※1 ムードは、ファッション業界で使われる世相や消費者の意識を包括した言葉。ムードがトレンドを生み出す大きな要素となります
ムードは移り変わるものですが、ファッションビジネスの特徴は、新しいものを世に送り出し既存のものを古く感じさせる「心理的陳腐化」というマーケティング手法をとることです。
伝統的には、生地展などで着想を得たデザイナーたちが、パリやミラノ、ロンドン、ニューヨークなどのファッションウィークで新作を発表し、メディアを通じて世界のファッション業界に影響を与え、トレンドとなって市場に広がっていき、かつてのトレンドを古臭いものとしてきました。
その究極のビジネスモデルとして生まれたのが「ファストファッション」です。「ZARA(ザラ)」や「H&M(エイチアンドエム)」に代表されるビジネスモデルのことで、安価なトレンド商品を次から次へと販売し、日本のファッションマーケットに風穴を開けて大きな話題となりました。
しかし、それもひと昔前のこと。
ファッションに興味がある層でさえも、トレンドに乗ることにNOと言い出しているのです。
boycottfashion(ボイコットファッション)運動とその背景
今、SNSで広がりを見せているハッシュタグがあります。
#boycottfashion
環境のことを考え、ファッションそのものの存在を考え直すという運動です。フードロス問題が現在メディアで大きな話題となっていますが、ファッション商品の過剰流通在庫も問題点として指摘されています。
物理的損傷がないにもかかわらず、ただ「鮮度や感度が低い」「時代遅れ」により売れ残った商品を廃棄してきたファッション業界への大きな疑問が投げかけられているのでしょう。この流れに対応するように、ファッション業界では商品企画の精度アップを図り、プロパー消化率(正価販売の比率)を向上する手法が模索されています。
また、どうしても生じてしまう売れ残りを専門業者に販売したり、売れ残り品を販売する「オフプライス」業態も開発されています。以前から自社の商品を値引き販売する「アウトレット」業態というものがありましたが、今開発が進められている「オフプライス」業態というのは他社商品の売れ残りも仕入れて販売するというものです。このような値引き専門業態は食品や住関連品で珍しいことではありませんし、同じファッション業界でも欧米やアジア諸国では当たり前のことでしょう。
しかし、日本のファッション業界では禁じ手とされてきました。
なぜなのか。
それは日本のファッション消費では中間層がほとんどを占めているからです。
欧米やアジアでは富裕層ターゲットの高級品をセールしたり、オフプライスストアに回したりすることで中間層に販売していますが、日本では高級品も中級品も購入するのは中間層が中心。そのため、安易に値下げをするとブランドイメージの失墜につながり、企業の寿命を縮めるのです。
しかし、SNSなどでビジネスの裏側や企業の事情を、消費者が簡単に知ることができる今、企業側のエゴが通らなくなってきています。それが今まで禁じ手とされてきた方法を使わざるを得ない理由でしょう。
「もったいない」精神とマッチしたタイムレスファッション
これまでの禁じ手を使い、売れ残り品を減らすという動きとともに、ファッション業界で注目を集めている手法があります。
「タイムレスファッション」というコンセプトで商品を開発するというものです。
これは「『長く使える』『使えば使うほど愛着がわく』ファッションを作ろう」という考え方。元来日本には、「もったいない」という考え方があり、物を粗末にしないことを美徳としてきました。そのため、日本のファッションは商品と商品を組み合わせて新規性や季節性を生み出すことに長けているのです。着物文化の進化系とも言えるでしょう。
タイムレスファッションを構成する商品はシンプルな美しさを備えていることが必須です。このような、「シンプル美」とも言える商品を組み合わせ次第で新しさを出すというファッションに注目が集まっています。「ユニクロ」や「無印良品」が世界で支持されている理由もここにあるのです。
このような考え方は、世界の最先端と言われるコレクションシーンでも広がりつつあります。装飾を可能な限り削ぎ落とし、過剰なシルエットも描かない「ミニマルデザイン(※2)」が再浮上し、それらを提案しているデザイナーたちが注目されています。なかには、新作とこれまでの商品を組み合わせてファッションショーを行うデザイナーも登場してきています。
※2「ミニマルデザイン」とは、構成要素を可能な限りそぎ落としたデザインのこと。「飾りが少ないながらもデザイン性が高い」というような意味合いがあります このことは、新しいファッションを提案し続けてきた結果、既存顧客を切り捨ててきた反省の表れともいえるのではないでしょうか。
まとめ
新しいデザインを次々と発表し成長し続けてきたファッション業界ですが、地元消費者の平均年齢が高くなる、いわゆる大人社会化が進む先進諸国では地元消費者の「ファッション離れ」が叫ばれて久しいでしょう。そこに環境保全問題が絡みあい、「次から次へと着替える」ことに対する罪悪感までを生むようになってきています。「売るため」の努力はしてきたけれど「売った後」の努力をしていないことが招いたとも言えます。 このことはファッション業界だけでなく、すべての小売業や流通業にとっても起きている問題だと思います。「流行だから」「新しいから」という理由だけで売るのではなく、「人とブランド」、「人と商品」がつながるような絆をどのように創造するのかが大事な時代となったのではないでしょうか。
執筆者: 山中コンサルティングオフィス代表 山中 健
大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。ファッションビジネス、百貨店、SC(ショッピングセンター)業界などにおいて、マーケティングやMD、リテールのコンサルティングを手掛ける。