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欧米で進む食・住関連小売業のファッション化とは? 日本でも共通する3つの要因【前編】

2020年05月25日
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欧米では食や住関連の小売業のファッション化がさらに進んでいます。ファッション化の定義はさまざまありますが、小売業のファッション化とは、情緒や美的感覚に訴えるマーケティングやMD(マーチャンダイジング)を取り入れることです。では、なぜそのような手法が必要となってきているのでしょうか? その背景には3つの大きな環境変化があります。ここでは、食や住関連の小売業において、ファッション化が進む要因を解説します。

要因①食・住関連品のパーソナルユース化

食や住関連小売業のファッション化の背景には、食や住関連品の「パーソナルユース化」があります。パーソナルユースとは、費用の出所による分け方の一つで、簡単に言えば自分のお小遣いから買い物をすることです。一方、家計費用から買い物をすることをホームユースと呼びます。

一方、買い物のスタイルでの分け方として、バイイング(Buying)とショッピング(Shopping)の2種類があります。

バイイングとは、企業の調達担当者と同じく、少しでも安いものを手に入れる買い方で、ホームユースと親和性が高いです。計画的であり、多少の不便を伴っても目的のためには我慢します。日常的にホームユースを行う庶民が、食・住関連品など生活必需品を調達する際は、このような買い方をすることが多いでしょう。

対してショッピングとは、楽しみながら買い物をするスタイルのことです。多少値段が高くても、楽しく買い物ができることを一番の目的とします。生活必需品以外の商材を揃える小売業は、買い物そのものを楽しめるよう努力をしてきました。このようなスタイルはパーソナルユースと親和性が高いです。アパレル小売業などがその代表でしょう。

今、一人暮らし世帯の増加や女性の社会進出などが起こっています。その結果、これまでホームユースだった食や住関連品のパーソナルユース化が進んでいます。パーソナルユース化が進むと、感情的価値を最重視する情緒的な購買行動が重要になってきます。

結果としてこれらの食や住関連小売業でもファッション化が進行しているのです。

要因②都市型業態の開発活性化や日々の生活のアップスケール化

食や住関連小売業の多くは、郊外や住宅地に出店することが基本でした。しかし、日本では2007年に新まちづくり3法が施行され、市町村や県などの自治体が郊外のショッピングセンター建設に規制を行うことが可能になり、郊外に新しい商業集積がしづらくなりました。

そして、中心地活性化やサステナブル社会に通じるコンパクトシティ構想への注目、世界大都市の再開発により都市型業態の開発が重要となっています。

例えば世界的に、郊外で同じパッケージの店舗を多数構えていた巨大チェーンも都市開発を進めています。イギリス企業マークス&スペンサーの「Simply Food(シンプリーフード)」、フランス企業カルフールの「Carrefour Express(カルフールエクスプレス)」や、同じフランス企業カジノグループの「MONOPRIX(モノプリ)」「FRANPRIX(フランプリ)」など、ハイパーマーケットや大型スーパーでお馴染みの企業が、都市型業態を都心部に開発しています。

これまでは、食品スーパーやよろず屋をバージョンアップしたレベルでしたが、近年は都市生活者のライフスタイルに合わせた品揃えやイートインなどを備えた「過ごせる」ミニスーパーも出店しています。またこれらの企業が今力を入れているのが、ファッショナブルなオーガニックスーパーです。

カジノグループの「NATURALIA(ナチュラリア)」は、オーガニックというライフスタイルから着想したナチュラルな内装や展示物、凝ったVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を展開し、地元民に支持されています。

都市立地の不動産コストは高くなるので、客単価アップ、粗利アップも必要となります。そのためには、付加価値の高い商品の販売を強化しなければなりません。そこで価値訴求のためのファッション化が必須なのです。

日常のアップスケールが引き起こす食品小売業のファッション化

食品物販店においては、これまで高級スイーツでのファッション化が目立っていましたが、現在はオーガニックやファーム・トゥ・テーブル(生産者の農場から消費者の食卓までつながる食品安全管理の考え方)などのコンセプトを掲げる小売業のファッション化が進んでいます。

その理由は、日々の生活に必要な食材や一般食品をアップスケールするというのが大きなトレンドだからでしょう。

アップスケールとは、簡単に言うと、質とイメージの向上のこと。以前は「アップスケール=高級食材」という図式でしたが、今は以前の記事でも取り上げた「心身の健康を大事にする」というウェルネス概念のもと、オーガニックなどにシフトしていることが多くなっています。アップスケールするということは単価も粗利率も高くなります。それに見合う高付加価値を訴求するというのも、食品小売業がファッション化している理由と言えます。

要因③オンラインマーケットの広がりとリアル店舗の役割変化

そして食や住関連品のファッション化が加速する背景にオンラインマーケットのさらなる広がりが挙げられます。経済産業省の資料によれば、生活雑貨や生活家電など、日本でも住関連品のEC化率が20%、30%を超えるカテゴリーもあります。

参照:経済産業省|平成 30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/H30_hokokusho_new.pdf

先述のバイイングであれば、オンラインのほうが便利です。価格比較もしやすく、冷静に判断できます。

しかし、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という五感で商品を確認したいという消費者のニーズは無くなりません。特に、オンラインでは味わえない触覚・味覚・嗅覚はリアル店舗で確認するしかありません。ECとの差別化として、この五感をより楽しめるような店舗が求められているのです。

市場のような陳列や調理風景を見て得られるワクワク感、イートインスペースでじっくり語り合えるオーガニックスーパー。セルフと質の高いカウンセリングやカスタマイズ、ウェルネスなライフスタイルを楽しめるドラッグストアやコスメショップ。トラブルシューティングとリアル空間でのデジタル体験を堪能できる家電店…などが支持されている通り、リアル店舗が無くなることはないでしょう。

むしろ質の高い体験ができる店舗、自店のコンセプトや哲学をデザインや環境で具現化した店舗はますます求められており、これらの取り組みが小売業のファッション化を進めていっているのです。

まとめ

情緒的な買い物行動を招く食・住関連品のパーソナルユース化客単価や粗利アップを前提とした都心立地への出店やアップスケール、そしてオンラインショッピングの拡大によるリアル店舗の役割の変化、という3つの環境変化により、欧米などで食・住関連小売業のファッション化が進んできました。

この3つの変化は日本でも共通しており、求められていることは同じでしょう。ファッション化は、ただ単にデザイン性の高い店舗を作るということではありません。自店のコアコンピタンス(中核となる強み)をデザインに転換し、顧客を魅了し囲いこみ、共鳴できる店にすることが必要なのです。

後編はファッション化の店舗事例を取り上げて、どのように店頭で表現していくのかについてお伝えします。


執筆者: 山中コンサルティングオフィス代表 山中 健
大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。ファッションビジネス、百貨店、SC(ショッピングセンター)業界などにおいて、マーケティングやMD、リテールのコンサルティングを手掛ける。

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