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好調な小売店の決算書を分析し小売業の将来性や未来像を考える~ アクシアル リテイリング、マツモトキヨシHD編 ~

2019年07月29日
※掲載内容は公開日時点の情報です。現在と異なる場合がございます。
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1.ここ最近の小売業の販売不振の原因は?

さて、クイズです。2018年度上場GMS,スーパーマーケットの売上高上位20位企業の中で、「増収増益」企業は、いくつあったでしょうか?「答え」は5社です。
そこで、ここ最近、小売業が不振と言われている理由は「どんなことなのか?」を決算発表時の経営者のコメントを中心にチェックをしてみます。

小売業不振の理由

(1)消費者マインドの冷え込み
去年の暮れ(2018年11月~12月)から消費者の財布のひもが固くなる傾向が多くの上場企業の既存店の売上高減で確認されています。例えばライフコーポレーションでは、第4四半期の売上高前年比がほぼ6年ぶりにマイナスとなりました。

(2)災害の影響
去年は、集中豪雨・台風・地震などの災害が大きく影響しました。ライフラインアイテムが売れる一方で、消費マインド(特に付加価値アイテム)が冷え込みました。

(3)暖冬
やはり商売の原則としては、「暑い時は暑く、寒い時は寒く」でなければ季節商品の動きが悪くなります。

(4)コスト高
損益計算書の販管費の構成比の高い人件費や原油価格上昇による電気料金などの上昇によって「減益」傾向となりました。

(5)「異業種」含めた競争激化
例えばスーパーマーケットであれば、「Eコマース」「ドラッグストア」「コンビニエンスストア」等の異業種との競争対策で主力商品やPBの値下げによって対抗しました。

今期の決算時の経営者の「今後」の方向性をチェックする

今後も「消費増税」の影響もあり、消費者は「買物を抑える」「様子見」傾向となり、業績のダウントレンドを予測する経営者の意見も散見されました。
一方で地方企業を中心に経営不振となり、逆に「寡占化」のチャンス到来と考える経営者の意見もありました。

2.成功している小売業の決算書から何が読み取れるのか

そこで今回の「お題」は、「好調な小売店の決算書を分析し小売業の将来性や未来像を考える」です。今回ピックアップしたのは、「アクシアル リテイリング」と「マツモトキヨシ」です。
両社ともに2019年3月期決算は、「増収増益」の好調な結果でした。

アクシアル リテイリングは社名で、運営する店舗名は「原信(新潟)」「ナルス(新潟)」「フレッセイ(群馬)」です。食品スーパー売上高ランキング(公開企業)によると、アクシアル リテイリングは売上高 2353億4700万円で第9位にランクインしています。(ちなみに第1位はライフコーポレーションで売上高6986億9300万円です。)

3.アクシアル リテイリングの成功要因とは

アクシアル リテイリングは前述のとおり、「食品スーパー売上高ランキング(公開企業)」は9位ですが、「食品スーパー経常利益率ランキング」は、4.1%で2位です。(ちなみに、1位は埼玉県を中心に展開するベルクで4.6%です。)

今期は多くの企業が減益となる環境下で、手堅く利益を上げる要因を、「2019年3月期 IR資料」などから、私が気になったポイントを3つピックアップしてみます。
参考:アクシアル リテイリング 2019年3月期 IR資料 より

(1)TQMの推進
群馬県を中心に食品スーパーを展開するフレッセイと経営統合から5年が経過し、主な取り組みとして「TQM(トータル・クオリティ・マネジメント:総合的品質管理)」を挙げ、経営基盤にしています。
TQMとは、従業員一人ひとりが主体的に取り組む改善活動のこと。現場で、PDCAを回すこと(週単位で課題を立てて、見直し、次につなげる)が徹底されていることが分かります。 なお、去年は日本科学技術連盟より小売業としては初の「2018年度QCサークル経営者賞」等を受賞しています。

(2)店舗フォーマットの進化  
2018年度前半期には、「原信」の河渡店(新潟県新潟市)、小出東店(新潟県魚沼市)を新たな主力フォーマットである「セントラルマーケット」としてリニューアルオープンしました。旗艦店の位置付けで、従来の店舗コンセプト「①新しい商品・売場展開 ②あかぬけた売場 ③生産性の向上」をバージョンアップさせ、「①専門性 ②情報発信 ③ライブ感」をコンセプトとした店舗となっています。

(3)365サイドディッシュ
新たなフォーマットの目玉の一つが「365サイドディッシュ」です。「毎日の食卓を彩るおつまみ・前菜」をコンセプトに、ナチュラルチーズやローストビーフ、生ハム、ワイン、ドライフルーツ、ピクルスマリネなどが対面のアイランドでコーナー化しています。

4.マツモトキヨシホールディングスの成功要因とは

ドラッグストアの好調企業の「勝ちパターン」は大きく分けて3つに分かれます。
1)インバウンド 2)調剤 3)食品(生鮮品含)強化
となっており、もちろん複合要因で勝ち上がっていくパターンもあります。

今回ピックアップした「マツモトキヨシHD」の2019年3月期「決算説明会」資料では、売上高 5759億9100万円(前期比 3.1%増)、営業利益 360億2800万円(前期比 7.3%増)となっております。  
その好調要因を、私が気になったポイントをデータなどから3つピックアップしてみます。
参考:マツモトキヨシホールディングス 2019年3月期 決算説明会資料 より

(1)営業利益率改善の4つの主な要因
①共通KPI指標で効率を管理、②インバウンドの好調推移、③PBの強化・マツキヨ ラボなどの新業態拡大、④顧客接点・施策のデジタル化加速の4つの主な要因により、小売事業の営業利益率が改善されました。
これらの結果によって、営業利益率は「マツモトキヨシ小売事業」で7.1%、「その他の国内小売事業」で5.1%と、それぞれ前期差+0.2ポイントとなりました。

(2)インバウンドが好調
訪日前・訪日中・訪日後の取り組みにより、「免税売上高」は、前期比15.5%増で、売上高構成比は13%超(前期 12%超)と絶好調な結果となりました。
訪日前のSNSによる情報発信、訪日中の購買データとパスポートデータの分析、訪日後の越境EC・海外店舗展開などの施策を行っています。

(3)デジタル化の推進
顧客接点や施策はより一層デジタル化が推進され、「スマホアプリ」「購買データ・行動データ統合データベース」「メーカーのマーケティング支援」等の施策を展開しています。  
特に顧客接点の結果を表す数値として、「スマホアプリを介して、店舗とECを横断利用するグループ会員は300万人を超え、増加率はカード会員を大きく上回っている。」とあり、会員数は同社の強みとなっています。

5.自社の小売業の未来を掴むには成功企業の決算書から読み解く!

さて今回ピックアップした2社の「好調小売事業の決算」から成功要因をまとめてみましょう。

1.両社ともに「組織の活性化」に重きを置く
アクシアル リテイリングは「TQM(総合的品質管理)・QCサークル活動」を、マツモトキヨシは「KPI管理による経営効率向上」と、両社ともに「組織活性化」の基本的なベースの考え方がぶれていません。

2.新業態に積極的に取り組む
新たな店舗フォーマット・新業態に積極的に挑戦して、新たな「メニュー提案」「PB開発」を強化して、付加価値の向上に取り組んでいます。

3.顧客接点を増やすために「デジタル×アナログ」融合  
顧客接点を増やすためにスマホアプリを介して、「店舗」と「EC」の横断利用を促進しています。


<著者>
株式会社マーケティングラボ 代表取締役 中村 仁
東証一部上場スーパーマーケット勤務後にコンサルタント活動開始。2007年株式会社マーケティングラボ 代表取締役に就任。GMS・SM・メーカー等の「マーケティング」や公的機関の「派遣事業」等を中心に常に「リアル」「現場」に基づいた情報を提供。

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