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アマゾンに勝つ売場づくりのポイントは体験設計!
目次
最近の小売業不振の原因を当事者にヒアリングすると「アマゾン(Amazon)」の名前が出てきます。小売業がアマゾンに勝つために何をすべきなのでしょうか。そして、品揃え、価格以外で顧客に支持してもらうためには何が必要なのでしょうか。ここでは「体験」をキーワードに、アマゾンと比較したリアル店舗の強みや、売場づくりにおける具体的な体験事例を紹介します。
伸び続けるオンラインショッピングとアマゾン
現在、スマホと相性の良いオンラインショッピングがどんどん伸びています。経済産業省の調査によると、2018年の消費者向け(BtoC)EC市場規模が前年比8.9%増の17兆9845億円、BtoC-ECの物販系分野におけるEC化率は同0.43ポイント増の6.2%となっています(※1) 。
野村総合研究所の調査によると、特に20~30代のネットショッピング経験の割合は80%近くにも及んでいます。平均利用回数もどんどん上がり年間19.8回と、月に1回以上使用しているペースです(※2) 。
またニールセンの調査によると、ネットショッピングのなかでもアマゾンは日本国内での利用率が56%と第一位であり、利用者は4000万人を超えています(※3)。アマゾンジャパンの売上は公表されていませんが、impressの調査の推計によると2兆4000億円を売り上げていると推測されています(※4)。
つまり、我々小売業のビジネスを考える場合に、オンラインショッピング、そしてアマゾンの影響は避けて通れない状況なのです。こういった状況を受けて、小売業はどのような戦略を練るべきなのか探っていきましょう。
アマゾンとリアル店舗の決定的な違いとは?体験を設計せよ
ここでは、アマゾンの強みとリアル店舗の戦略について見ていきましょう。
圧倒されるアマゾンの凄さ
なぜアマゾンは、多くのお客様から支持されているのでしょうか。
まずはスマホですぐにポチっと買える利便性が挙げられます。それ以外にも、圧倒的な品ぞろえや、価格の安さなども理由の上位に挙がるでしょう。さらに、ついついチェックしてしまうカスタマーレビュー。商品を購入する際、購入者のクチコミは気になるところです。まだ買ったことない商品を他人はどう評価しているのか、使い勝手はどうなのかなど。
そして、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」と表示されるレコメンド機能。あなたのお店ではレコメンドを徹底できていますか?
アマゾン以外の他人がSNSやアフィリエイトサイト(インターネット広告のひとつ)で商品を推奨して拡散してくれる場面に出会うことも多いです。 このようにまとめると、アマゾンが販売力の面でも、集客の面でも洗練されていることが分かるでしょう。
リアル店舗だからできる戦略とは
では、我々小売業はどうすべきなのかを考えます。アマゾンと同じ品揃えは無理ですし、価格も安くするには限界があります。それでは、リアル店舗とアマゾンの決定的な違いとは何でしょうか。
それは目の前にお客様がいることです。
当然、店舗では早く買い物をして帰りたいというお客様もいるでしょう。しかし、AIを搭載して、電子決済を導入して、効率化を図り、利便性をアマゾンに近づけていっても、果たして我々小売業のビジネスは価値を生み出せるのでしょうか。今一度考えていきたいポイントです。 目の前にお客様がいることをどのように価値に転換すべきなのでしょうか。そのヒントとなるのが、“体験”です。この体験を設計できるリアル店舗が今後生き残っていける企業であると考えます。
体験がリアル店舗の武器になる
ここでは体験設計のヒントとなる“経済価値の進展”について触れていきます。
リアル店舗だからできる進化
上の表がリアル店舗復権のヒントとなります。この表は、ジョセフ・パインII世とジェームス・H.ギルモアが経済価値の進展を段階に分けて論じたことを図式化したものです。
例えば、コーヒーで考えてみましょう。“コモディティ”とは、農水産物や鉱業のように、自然界からの産物であり、代替可能という性質を持ちます。これは、コーヒー豆で表せます。コーヒー豆はわずかに等級や産地等で識別されるだけであることが多いです。
次の“商品”とは、コモディティを原材料に用いてつくられた有形物のこと。企業によって規格化され在庫されます。ここでは、コーヒー豆を挽いて、パッケージされ、商品として店頭に並びます。最近ではこのレベルでの差別化を表す例として、PB(プライベートブランド)やチェーンストアオリジナル商品など、“ここでしか買えないもの”に躍起になっている企業も多いです。
ただし、経済的価値の進化のステップはまだあります。 3段階目の“サービス”とは、お客様がしてもらいたいが、お客様自身ではしようと思わない特定の仕事を指します。このサービス経済では、商品がサービス提供の手段の一部となります。コーヒーの例では、カフェがサービスにあたります。どこのブランドで作られたコーヒー豆かはしっかりと明らかにされずに、カフェとしてサービス提供されていることからも実感できることでしょう。そしてこのサービスでの競争も近年はどんどん激化しています。
売場づくりでは体験を設計せよ
サービス差別化による次の次元が“経験”です。経験は、顧客を魅了し、思い出に残る出来事に変えます。例えば、最近できた「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」は、コーヒーの世界を五感で体験できる店舗です。星付きレストランや高級ホテルなどで飲む体験もこれに近いと言えます。このように、お客様に“経験”を得てもらう店舗を作ることが「体験設計」です。
我々小売業が今後注力すべきなのは、どんな商品を並べるかではありません。サービスや、経験を通して、お客様に良い経験をしてもらえるようなビジネスを行なうべきなのです。そして、目の前にお客様がわざわざ来店してくれているならば体験設計に注力しない手はありません。
体験設計における3つの成功例をみる
それでは、実際に体験設計に注力して、力強く業界を牽引している企業を見ていきましょう。
縮小する業界で成長する企業
右肩下がりの書店業界で圧倒的な成長を遂げているのが、書店売上第一位のCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営するTSUTAYAです。T-SITEの店名で近年出店していますが、書籍・雑誌の販売額が1,308億円であり、あの紀伊國屋書店を抜いて業界一となりました。趣味や嗜好の多様性に合わせた品揃えや、カフェを併設した空間づくりなど、買うことを主体とした売場づくりから、本との出会いの場を演出した“ライフスタイル提案型”の店舗になっています。
そしてCCCが近年力を入れているのがイベントです。T-SITEでは書籍の著者を招いたトークイベントなどがたくさん企画されています。このように、どこでも買える書籍が体験にまで設計されている事例なのです。
有料ゼミという体験設計
CCCの事例をさらに発展させているのが、東京の天狼院書店です。駅からも遠く、あまり目立たない場所にひっそりとたたずんでいるわずか12坪の書店ですが、侮ってはいけません。
天狼院書店も本以外に、「体験」を設計しています。具体的に言うと、ライティング、小説、時間術、演劇、デザインなど多種多様な大人の部活を提供しています。これらはゼミと称して、実際にワークショップなどで活動し、オンライン・オフライン問わずに実際に体験できます。もちろん有料での参加なのですが、ゼミはあっという間に締め切りになってしまう回もあるほどの盛況ぶりで、東京天狼院書店はゼミという「体験」を売ることで独自の価値を生み出した事例となっています。
食品小売業界で注目企業たちの売場づくり
食品小売の分野で成功をおさめているのがヤオコーです。食生活提案売場をコンセプトに店舗を運営しています。その象徴的なものが、「クッキングサポート」と言われる調理実演コーナーです。さらに、ヤオコーのように体験をポイントに業績を伸ばしているのが、サミットです。サミットは、2019年3月期決算(単体)は売上高、各利益ともに過去最高を達成し、過去3年で客数は8%増、既存店売上高は10%増となりました。社長交代から方針を固め、ハイタッチなコミュニケーションを実現し業績に結び付けています。例えば、鮮魚コーナーでは販売員が立ち、おすすめの魚を調理法とともにリコメンドしたり、無料でわた抜きや3枚おろしなどをしてくれたりします。地域との交流のために月に1度店舗の見学ツアーをしたり、世間話にも付き合ってくれる案内係を設置したりする店舗もあります。サミットでは、店舗の中央に「おためし下さい」というコーナーを設けて、新商品をはじめとする商品を週替わりで試食できるようにしており、しかもお客様が気になる商品をリクエストすることも可能です。
ヤオコーやサミットは体験をお客様に提供する施策もあって業績向上を実現しています。お客様がその店に行きたいと思えるようにする「体験設計」はリアル店舗においてますます重要なポイントになっていくでしょう。
参考:なぜか買い物が楽しくなる~客殺到スーパーの舞台裏:読むカンブリア宮殿-テレビ東京
まとめ
アマゾンをはじめとするオンラインショッピングとの競争があらゆる業界で激しくなっているなかで、リアル店舗が勝つことができるポイントが「体験設計」なのです。単に商品を並べる小売店が、お客様に経験を得てもらえるような場所になれば、リアル店舗としての価値も進化します。書店業界のT-SITEや天狼院書店、食品小売業のヤオコーやサミット。業績を伸ばしているそれぞれの事例を参考に、体験設計を積極的に推進してみてはいかがでしょうか。
<出典元>
※1 2019年度 電子商取引に関する市場調査の結果(METI/経済産業省)(公開終了)
※2 生活者1万人アンケート(8回目)にみる日本人の価値観・消費行動の変化|野村総合研究所
※3 オンラインショッピングサービスとオークション/フリマサービスの利用状況をまとめ|ニールセン デジタル株式会社
※4アマゾン日本事業の売上高は約1.5兆円【Amazonの2018年実績まとめ】|impress ネットショップ担当者フォーラム
<執筆者プロフィール>
CMOパートナーズ 大槻 純一
イオンリテールにて店舗マーケティング・MDに従事。その後慶應大学大学院卒業後、コンサルタント活動開始。赤字上場小売り企業において短期間での黒字化プロジェクトの成功、老舗企業による新規事業開発。大手メーカーのバイヤー攻略商談において、量販店バイヤー専門の提案営業への転換により、納価切上げ及びシェアアップの成功を支援。立教大学大学院での講師、マーケティング学会での発表等その他多数。