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商売の標準になるウェルネス概念!背景にある「絆消費」とは?
ウェルネスとは「心身ともに健康」という意味ですが、その概念は時代とともに変わっています。これまで「心身」の特に「身」に重点が置かれていました。それは、世界各国が国民の健康増進に力を入れ、公的医療保険のコストを下げていくという狙いもあったからでしょう。しかし今は「医療」や「セルフケア」の領域だけでなく、「美容」「不動産」「旅行」の領域などまでがウェルネスの概念と融合して大きなビジネスマーケットを形成しています。そうしたことから欧米ではウェルネスが、幅広い小売業やサービス業などで根幹の概念となりつつあります。
ファッション化するウェルネス
ウェルネスビジネスは2017年時点、世界で4.2兆ドル、前年伸び率6.7%となっており、世界で注目されている領域です。その中で最も大きな領域は美容関連で1兆ドル、次いで健康食品・ダイエット関連が7,020億ドル、ウェルネスツーリズムが6,390億ドル、フィットネス関連が5,950億ドルと続いており、いずれも伸びのあるビジネスとして注目され続けています。
出典:GWI Wellness Economy Monitor 2018 – Global Wellness Institute
このように世界で広がっているウェルネスという概念は、欧米の消費者向けのビジネスでは不可欠となっています。それは、消費者のセルフケアに対する意識の高さの表れです。それに対して企業は、単に「身体にいい」ということだけでなく、「自分(消費者)にも環境にも優しい」「居心地のいい」という要素を、ブランドメッセージやビジュアル、店舗環境作りに取り入れています。
特に意識の高い消費者が反応し、「ウェルネスのファッション化」が広がり、ドラッグストアや美容関連店、フィットネスジム、健康食品店などのセルフメディケーションやセルフケアビジネスのあり方も変わってきています。
これらの商品やサービスは毎日続けなければならないので手頃な価格であることが重要ですが、以前のような量販的な売り方ではなく、質を売る「質販的」な売り方が必要となります。
そのために、各ブランドが自社の哲学を持ち、それをウェルネスとシンクロさせます。さらにその哲学をビジュアル化する「デザイン経営」を取り入れた結果として、ファッション化しています。今、ニューヨークやロンドン、パリなどの街を歩き、洒落た店構えだと思って覗いてみると、ウェルネス関連の店だということが多くなっています。
「生きがい」「やりがい」を生むコミュニティマーケティングが主流へ
前述の通り、ウェルネスという概念は時代によって変化しています。もっと言うと、変化というより解釈の範囲が拡大しているのです。以前は「未病対策」という概念がウェルネスの中心でした。病気にならないよう運動する、身体にいい食事をする、身体を労るために旅行をすることで心を落ちつかせるというものが多くありました。
しかし、現在は「生きがい」や「やりがい」もウェルネスの概念の一つとされています。そこで、ウェルネスを重視する各企業では「生きがい」や「やりがい」を創造する「コミュニティマーケティング」が主流になりつつあります。コミュニティマーケティングとは、自社商品にまつわるコトを提供してコミュニティをつくり、組織化するというものです。
商品価値には大きく「見た目の価値」と「使ってわかる価値」があります。ウェルネスビジネスの商品は「使ってわかる価値」をすぐに実感することは難しく、使い続けて価値が生まれます。この「使い続けてわかる価値」を伝えるためにコミュニティマーケティングが大事なのです。
コミュニティマーケティングは「売り手」と「買い手」という一対多の一方通行ではなく、お互いが伝え合い、影響を及ぼし合うというものです。商品やサービスが良ければコミュニティの結びつきは強くなり広がっていきますが、商品やサービスが不満であれば縮小し消失していきます。まさに「本物の時代」に沿ったマーケティング手法と言えます。
この手法で急成長したのが、フィットネスファッション企業のlululemon(ルルレモン)です。ヨガや瞑想、ワークアウト(運動したり、体を鍛えたりすること)のクラスを運営して、同ブランドのパフォーマンスの高さを示すだけでなく生徒の生きがいを創造したり、各地のインストラクターにアンバサダー制度を設け、コミュニティ内のスターにすることでやりがいを創造させたりしています。
人と○○が繋がるための「絆消費」の時代
このようなコミュニティマーケティングが増えている背景には、消費の変化があります。
生きていくための消費(最低限の衣食住など)、所有のための消費(マイホーム、マイカーなど)、個性表現のための消費(ファッションなど)と、時代と共に新たな消費が生まれてきました。
そして、今世界で広がっているのが「絆消費」です。「人と人」「人と場」「人とコト」「人と地球」が繋がるための消費に関心のある人々が増えており、これに対応したブランドや企業が成長しています。
以前は生活や所有欲、そして個性発揮のためのモノが消費の中心でしたが、繋がるために消費するようになります。この消費の変化は、商品やサービスの売り方を大きく変えます。先に挙げたコミュニティマーケティングのように、「売り手」と「買い手」ではなく、皆が繋がり、共通の価値観を創造・醸成していくようになります。
絆消費の事例としては、ニューヨークで最も人気のあるショップの一つであるGlossier(グロシエ)が挙げられます。
グロシエは若い女性に人気の化粧品EC企業ですが、この実店舗に行くと驚きます。そこは店というよりサロン。
ゆったりと過ごせるクリーンで可愛らしい店内は、まるでセレブリティの子女の家に来たかのようです。テーブルのような平台に低密度に陳列された化粧品は、すべて試すことができ、来店客の多くを占める女性グループは「キャッキャッ」と声をあげながら化粧品を試し、盛り上がっていました。来店客は商品を買うというより、遊びに来ているという感じです。しかし、レジ前の待合スペースでは商品待ちの女性が大勢おり、繁盛ぶりがうかがえます。セルフケア商品という「モノ」だけでなく、「居心地の良さ」「繋がる楽しみ」というウェルネステーマを兼ね備えた店なのです。
所有のための消費は「価格訴求と高密度陳列で購買欲を喚起すること」、個性のための消費では「憧れの対象となるような店づくり」が必要ですが、絆消費に対応するためには「いつまでもいたい」と思わせる店づくりが必要となるのです。
まとめ
このように「心身ともに健康」というウェルネスは、今後ますます拡大解釈されていき絆消費やサステナビリティ(持続可能性)と融合し、小売業だけでなくビジネスのデフォルト(標準化)となっていきます。そしてブランドや店のあり方も大きく変えていくことでしょう。
執筆者: 山中コンサルティングオフィス代表 山中 健
大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。ファッションビジネス、百貨店、SC(ショッピングセンター)業界などにおいて、マーケティングやMD、リテールのコンサルティングを手掛ける。