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小売業のファッション化に適応するには? 店舗で活かせる考え方と方法【後編】

2020年05月25日
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オシャレな店を作るだけでは通用しない小売業のファッション化。前編では食・住関連小売業のファッション化が進む背景について解説しました。後編では主に海外での店舗事例を取り上げて、店頭で情緒や美的感覚をどのように表現していくのかについてお伝えしていきます。

デザインと哲学が生むファッション化

現在、非アパレル業界でファッショナブルな店を構えているのは、アメリカのD2C(Direct to Consumer=商品を直接消費者に届ける売り方)プレイヤーたちでしょう。ここで注目したいのが、デザイン経営手法です。

デザイン経営とは、デザインを活力としてビジネスやマーケティングを組み立てることです。これまでもCI(コーポレートアイデンティティ)やブランディングというマーケティング手法のもと、デザインを強化する取り組みはありましたが、ロゴだけ、店舗デザインだけ、ウェブだけ、と、各施策が連動されていないことが多いのも事実です。

しかし、トランクブランドのD2C「AWAY(アウェイ)」、D2Cプレイヤーを集めたショールーム型店舗「b8ta(ベータ)」、音響機器のD2C「Sonos(ソノス)」などのリアル店舗のデザインは彼らの哲学を拡張し、店舗デザイン、商品、ECとも連動し、ブランドイメージを集中させたものとなっています。

これらの事例を理解するにはサイモン・シネック氏が提唱する「ゴールデンサークル理論」が役立ちます。従来型のマーケティングでは、「何を」「誰に」「どのように」というように、「何を(モノ)」が起点となる考え方で消費者との接点を組み立ててきました。一方で「ゴールデンサークル理論」では、「哲学(WHY)」を中心とし、「どのように(HOW)」「何を(WHAT)」と展開していきます。

例えば「AWAY(アウェイ)」は「Built for modern travel」を基にマーケティングを組み立ています。グローバル化が進む現代において、旅をデザインすることで、地球の平和に貢献することを哲学としています。その哲学を基に、丈夫でシンプルなデザインのトランクやトラベルバッグを手頃な価格で販売しています。店舗もこの哲学を具現化したクリーンでモダンなデザインを採用しています。

ライフスタイル編集で情緒・美的感覚に訴える

小売業のファッション化は店舗デザインだけでなく、商品構成にも変化をもたらしています。例えば、デザイン経営のアプローチをとっている小売業の特徴は、商品が絞り込まれていることです。

デザイン経営ではない伝統的な小売業は「何を(商品)」がマーケティングの起点となっていますので、商品展開も大分類、中分類、小分類と階層化され、各分類内の商品数を増やすことで売上を増やしてきました。その結果「主力でも補完でもない」商品を生むこととなり、雑然とした品揃えになりがちでした。

その一方、デザイン経営のアプローチをとっている小売業は、「哲学」を中心に考え、その哲学を叶えるためにカテゴリーを飛び越えながらも絞り込んだ主力商品を持っています。ゴールデンサークル理論の事例筆頭であるApple(アップル)などはその代表でしょう。

しかし、伝統的小売業がいきなりこの手法をとるのは難しいでしょう。
そこでとられるのが、ライフスタイル編集です。
シーン、テイスト、商品カテゴリーを踏まえライススタイルを設定して商品をミックスして展示・陳列するというものです。

事例としては、住関連百貨店からライフスタイル百貨店に転換したフランス・パリの「LE BHV MARAIS (ベー・アッシュ・ヴェー)」が挙げられます。かつてはホームセンターのような百貨店でしたが、Galeries Lafayette(ギャラリーラファイエット)グループの傘下に入ってからは、衣食住の商品をミックスし、各フロアやゾーンごとにライフスタイル編集を行っています。日本でいうと蔦屋書店が手がけた蔦屋家電や、台湾から進出した誠品書店などもカテゴリーを超えたライフスタイル編集と言えます。

このようなライフスタイル編集でも主力商品の設定は必要です。それぞれのフロアやゾーンでの主力商品の設定をしていかないと売上はとれません。ただし、主力商品の設定をしてから編集を考えるのではなく、ライフスタイルの設定を考えてから主力商品の設定をしていくというアプローチが大事なのです。

店を「過ごし場」とするファッション化の方法

飲食と融合した食物販店であるグローサラント業態でもファッション化が進んでいます。イギリスの「Natural Kitchen(ナチュラルキッチン)」は、田園地帯にあるカントリーライフを演出したかのような内装やファサード(建物の正面)が魅力。アパレル業界出身のオーナーがパリに開いた「LA MAISON PLISSON (ラ・メゾン・プリソン)」は、ファッショナブルなカフェのようなインテリアで、生鮮や精肉も販売しています。このようなファッション化した空間を作ることで「売り場」でなく「過ごし場」としての魅力を増しています。

そして、イタリアの「EATARY(イータリー)」、タイの「Eathai(イータイ)」などは、自国食材や自国料理の味わいと奥深さを伝えるグローサラント業態ですが、まさにテーマパークのような空間を作り上げており、非日常的な「過ごし場」を提供しています。

まとめ

マーケティング的視点から見ると、小売業のファッション化は他店と差異化するための一つの方法でした。しかし、今は自店の哲学をデザインに落とし込んだり、「売り場」から「過ごし場」に変換したりするための手法として採用されています。店舗のあり方が変わる今後、生活商業のファッション化はますます進むでしょう。


執筆者: 山中コンサルティングオフィス代表 山中 健
大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。ファッションビジネス、百貨店、SC(ショッピングセンター)業界などにおいて、マーケティングやMD、リテールのコンサルティングを手掛ける。

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