コラム 販促・集客
【販促dig!!/第4回カインズ 中西 遼氏<前編>】「KPIより”儲かり続ける仕組みづくり”にコミットしたい」

2021年01月14日
このエントリーをはてなブックマークに追加
左:ゲストの中西 遼さん  右:ホストの早川礼

時代の流れと共に変容していく「販促」の在り方。しかし、何が正しいのか、未来はどう進むかの答えは掴みにくいものです。本連載は、そんな疑問の答えを探るべく、販促の最前線にいる有識者をお招きし、幅広い視点から「販促」をテーマに対談形式で語りつくす企画です。

第4回のゲストは、株式会社カインズ デジタル戦略本部の中西 遼氏。大学卒業後、大手総合広告代理店にて主に流通小売業のマーケティング支援に携わり、2018年より国内大手アパレルメーカーで全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進。現在はカインズテクノロジーズ社から出向し株式会社カインズにて、Eコマースのデジタル戦略を担当されています。一貫して「小売×マーケティング」領域で活動されている中西氏がどんな想いでキャリアを築いてきたのか、どんなことを実践してきたのか。

今回も「Shufoo!(シュフー)」の運営会社である株式会社ONE COMPATHの代表取締役社長CEOの早川よりお話をお聞きしました。前編となる本コラムでは、キャリアやキャリア観を中心にお送りします。


大学時代の経験から広告代理店を目指す―「企業とユーザーの負を解消したい」

早川 礼(以下、早川):キャリアのお話からお聞きしたいと思いますが、大学卒業後はどのようなキャリアを築かれたのでしょうか?

中西 遼氏(以下、中西):大学卒業後は株式会社博報堂に入社し、6年ほど広告を主としたマーケティング戦略、メディア戦略の企画をしていました。その後2年間アパレルSPAのストライプインターナショナルでDX(デジタルトランスフォーメーション)領域を担当し、2020年9月からカインズに入社しました。

早川:今は3社目でいらっしゃるんですね。大学卒業後にマーケティングをやろうと思った理由は何でしょう?

中西:大学の時にフリーペーパーを作っていまして、その経験から“企業とユーザーの負を解消したい”と思ったことが代理店を選ぶきっかけになりました。僕が大学にいた頃はSNS全盛の少し前で、ニューメディアとしてフリーマガジンの「R25」がとても人気があり、これに触発されてフリーペーパー制作に携わってみました。「BRUTUS」や「Pen」のようなおしゃれなカルチャー誌に影響を受け、トレンドに合わせて発行号ごとに特集が変わるフリーペーパーを目指していたのですが…特集ではおしゃれなコーヒーを取り上げているけど、広告はボリュームたっぷりのラーメン屋さんの広告、という、今風に言えば「UXが悪い」状況が多発し、広告営業と編集チームで喧嘩が絶えず、編集長として頭を抱えていましたね。

学生の活動なので今思えば仕方ないのですが、当時の自分にはすごく重要な体験で、マーケティングのプロならこういった問題も解消できるのではと思ったんです。そこで、「何かを良く出すためのシナリオを作る仕事」に就きたいと思って、広告代理店を目指しました。

早川:それで博報堂に入られたのですね。どんなことをされていたのですか?

中西:最初は基本的な広告企画や戦略設計です。
広告を出すための大前提である「何する?何言う?何のために?」を定義し、広告主の見ている課題の解像度を上げるためのリサーチ企画やアクションフレームの設計をしていました。

マーケティングファネルを動かすのはメディア

中西:その後、希望して博報堂DYメディアパートナーズに3年弱ほど出向し、メディアバイイング企画や広告商品・メディアブランドの新規ビジネス開発などを主にやりました。

在籍当時の博報堂では、メディアプランニングの担当者と広告主軸のマーケティング・ターゲット戦略設計の担当者は分かれていました。
一方で、広告主からの要望が、デジタルの進化を要因とした戦略の一貫性をより重視したものに変わってきており、「マーケティング・ターゲット戦略」と「メディア」のバランスをとり繋ぐ人の重要性が増していました。

これまでは人ベースで分断され、企画上だけで統合していた部分を、最初から全体を通じた監修ができる人間を育成したいという組織方針のパイロットモデルの枠に志願し、大変でしたがとても貴重な体験をさせていただきました。

早川:かつては、予算に対して最大値をとるための最適な配分を考えれば良かったのが、売上や事業KPIに対して戦略的に設計する必要が出てきたということですね。

中西:そうです。
異動前は広告出稿を大前提にしたマーケティングやターゲットのプランを考えることが楽しかったけれど、それだけでは広告主のビジネスに金銭面で何も貢献していないことに気づきました。

それで異動を志願し、広告主のビジネス全体とは言えないまでも、広告という土壌から広告主への実利貢献にきちんと向き合う仕事をすることにしました。

「KPIを達成したと言い続けるより、儲かる仕組みを作ってお金を稼ぎたい」

早川:その後転職を決めたのは、どんな経緯があるのですか?

中西:2つ理由があります。

1つ目は、提示したKPIの達成やメディアの仕入れ額の大きさ、アイデアの面白さより、儲かり続ける仕組みを作っていきたいという思いが強くなったからです。

広告代理店としては先程のような話は当然褒めるべきネタですが、実際の広告主のビジネスに全然反映されていないことを担当として知っている自分からすると、拭いようのない違和感があったことを覚えています。

2つ目は、当時の上司を見ていて、5年後に取れる選択肢の狭さを感じて焦ったからです。

とても優秀な方で今後のキャリアのロールモデルとして見ていたのですが、その方の異動希望は優秀故になかなか叶わず、結局短期の出向を挟んで元の部署に戻りまた一緒に仕事をしていました。

個人としては嬉しかった半面、このままでいた場合の将来が見えたような気がして、転職を決意しました。

有難いことに業務面は会社に評価いただいていて、給与面も当時の年齢に対して一般水準からみれば明らかに好待遇でした。その中で腹をくくるのには時間がかかりました。 最後は、「いびつになったものを正しくしたい。上流から現場までを行き来し、価値のある仕事をしたい」と信じて、とにかく経験を積みたいと思いました

事業会社のDX推進には数々のハードル

早川:なるほど、それがストライプインターナショナルに転職するきっかけになったんですね。

中西:はい。
当時執行役員としてDX推進を担当されていた方が、IT企業のエンジニアから広告代理店に入ったというキャリアだったこともありますし、問題意識や当時のスキルを活かせる部分、会社と自分の今後の伸び幅といったビジョンが明確だったのでお世話になることを決めました。

早川:DX部門での大きなミッションは何だったのでしょう?

中西:大きくは2点あります。

1点目は、全社のデータをより素早く、誰でも見られるようにするデータの“民主化”と意思決定速度の向上

2点目は、施策のプランニングプロセスとガバナンスの強化です。

1点目に関しては、アパレルは在庫のコントロールが全てといえるくらい大事ですが、明日の在庫や客数の予測に5時間もかけていたら、他に何もできないわけですよね。

そして、その担当者が辞めたら、また新しい人が新しいエクセルを作る・・といった具合でした。

これでは生産性は上がりにくい。それを解決するためのツールを作ろうと思っていました。

具体的には、日々の実績や意思決定に必要なデータを可視化するためのTableau(データ分析ツール)のフロントエンドを、どう作れば各事業部の課題を解決できるのかを、僕とエンジニアと二人三脚で各事業部に個別で話を聞き、事業部に合わせたBI(ビジネス・インテリジェンス)を取り入れようとしていました。

早川:効果としてはどうだったのでしょうか?

中西:どこのDXも同じだと思いますが、最少単位では「現場での作業が早くなった」のような小さな改善はあるものの、収益インパクト即時に作り出すのは厳しかったですね。

意思決定に必要なデータがあっても、意思決定と共に組織やこれまでのやり方を変えないのであれば、やはり効果が薄いです。

2点目のプランニングプロセス・ガバナンスの強化も、基本的にはこれまで怠ってきた「やることの意味」の明文化とお客様に対するアカウンタビリティ(説明責任)を果たすということですが、どちらもマイナスが発生した時のリスクマネジメントの側面が強く、足腰は強くなっても手数が増えるわけではないというのが現実です。

代理店時代のキャリアと比べれば、“事業”や“経営”という観点から実際のアクションまで落ちていく過程を中の人間として実際に作ることで解像度は非常に高くなったと感じていましたので、非常に有意義な時間であったことは間違いありません。

ただ、これから先も「マーケター」や「コンサルタント」として、横から全体を見る“先生”のようなポジションで進むキャリアと、ビジネスインパクトをより直接的に作る業務ができるキャリアのどちらが自分にとって納得ができるのかを考える機会が業務の進行と共に増えていきました。

事業運営者としてマーケティングで何とかしたい

早川:なるほど。そうして現在のカインズさんに繋がるわけですね。カインズさんに転職されたのはどんな思いがあったのでしょうか?

中西:これまで何度かお伝えしているように、僕は儲かる仕組みを作りたいんです。それが人を幸せにすると思うからです。なのに肝心のエンジン部分を触ったことがないのは論外だと思いました。なので、PL(損益計算書)に責任を持つセクションで、事業や業務の改善・改革に事業部の人間として携わることができることに期待し、入社を決めました。

早川:次は主体者として、ということですね。なぜカインズだったのでしょう?

中西:理由は、いろんな意味で大きいからです。

ホームセンター業界として単体企業では1位。非上場ですので詳細は控えますが、日本の小売業態の中ではかなり大きな額の投資を改革にかけています。それを実現できる「大きく売って、大きく儲ける」ことが出来ている足腰の強さといったあたりでしょうか。

あとは、単純ですがホームセンターのあの建物のサイズ感が好きなんです(笑)こんなの売ってるのかっていう発見もありますよね。

早川:現在の業務内容はどんなことを?

中西:今は、商品ポートフォリオのマネージメントをしています。MD(マーチャンダイジング)のようなことです。ホームセンターは、長いものや重たいもの、危険物など様々な特性のある商品を多数取り扱っているため、ちゃんとポートフォリオを管理しないと収益構造が成立しにくいんです。 全社としてはコロナ禍でも好調ですが、ECの収益をみると全社と足並みを揃えられてはいません。目先の利益を追ってしまうと儲かり続ける仕組みにはならないので、お客様から見ておかしいと思うことや、ECで買い物をするときに「普通はこれ出来るよね」と思うことを一つずつ解消し、事業を正しく儲けられる形に進化させていきたいです。

35歳までに「何を動かしたいかを自問して答える人になる」

早川:今後キャリアを考えたとき、5年後や10年後はどうなっていると思いますか?

中西:なっている姿はわからないですが、少なくともテーマを見つけられる人でいたいです。

甲乙は付け難いと思いますが、「大きいものを、大きく動かすこと」で得られる価値の広がりやビジネスとしての影響力は、何もない所から最短ルートを通るより難しいことが多いと個人的には感じています。だから、大きいものを大きく動かすための仕組みを考える人になるために、「何を動かしたいのか」を自問して答えられる人になる。それが35歳くらいまで。

40歳までには、動かすための組織を作れる人でいたいし、45歳には成果が出ているといいなと思っています。

早川:既にライフワークが見つかっているってことですね。

中西:そうですね。これまで僕が仕事を替えてきた大半の理由が「(自分が)コミットしたいことは何なのか」というポイントでした。これまでは、売上は達成したが収益が出ない、売上と収益は出ないがKPIは達成した、といったことが許されてきた。でもいよいよ事業の収益を改善することだけを判断材料としたとき、収益を改善する前提として、何を問うたらいいのか。その問いの中で、どれだけ重たいものが見つけられるかが大事だと思っています。

早川:ありがとうございました。

次回の <後編>では、中西氏が取り組まれてきた施策や思想についてお送りします。


取材協力

株式会社カインズ
群馬県発祥のホームセンターチェーン企業。全国に200以上の店舗を構え、多彩な品揃えと個性豊かなPB品の販売に注力している。2019年度売上高4410億円。
http://www.cainz.co.jp/

【販促dig!!】
第1回・前編 リアル店舗の販促にも活きるデジタル販促の「今」とは? デジタルを使った販促の可能性を探る
第1回・後編  「このお店をリピートしたい」と思わせるためのデータ活用方法とは? デジタルを使った販促の可能性を探る
第2回・前編 情報のデジタル化を進める必要があるのか?小売業販促の課題と解決策
第2回・後編 令和時代をサバイブできる販促の新常識とは? 小売業販促の課題と解決策
第3回・前編 リテール変革プロフェッショナルとしてのキャリアと人生のパーパスとは?
第3回・中編 コンビニは店舗スタッフこそが源。だからマーケティングは社内外で同じくらい力を入れる
第3回・後編 「日本に足りないのはX。本気の変革です
第4回・前編「KPIより”儲かり続ける仕組みづくり”にコミットしたい
第4回・後編 デジタル化の中で、リアル店舗の価値を再定義して資産に変えることが大事
第5回・前編 リテールのCMOを志したきっかけはコカ・コーラ
第5回・後編 「リテールマーケティングは一般的な手法が通じないから面白い
第6回・前編  人を巻き込むスペシャリスト
第6回・後編 週刊ウェビナーは前例がないからやった

あなたに合った集客方法をご提案します

ページトップへ