コラム 販促・集客
【販促dig!!/第5回 富永朋信氏<前編>】リテールのCMOを志したきっかけはコカ・コーラ

2021年05月10日
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左:ゲストの富永朋信さん  右:ホストの早川礼

時代の流れと共に変容していく「販促」の在り方。しかし、何が正しいのか、未来はどう進むかの答えは掴みにくいものです。本連載は、そんな疑問の答えを探るべく、販促の最前線にいる有識者をお招きし、幅広い視点から「販促」をテーマに対談形式で語りつくす企画です。

第5回のゲストは、Preferred Networks(プリファード・ネットワークス)執行役員CMO(最高マーケティング責任者)の富永朋信氏です。コダックに入社後、これまで一貫してマーケティングに携わり、西友、ドミノ・ピザ ジャパンなどでもCMOを歴任されていらっしゃいます。

今回も、「Shufoo!(シュフー)」の運営会社である株式会社ONE COMPATH 代表取締役社長CEOの早川よりお話をお聞きしました。前編では、これまでのキャリアを中心とした内容をお送りします。


コダックでマーケティングの基礎を経験

早川 礼(以下、早川):キャリアについてお聞きしたいと思います。大学卒業後はコダックに入社されていますね。

富永朋信 氏(以下、富永):はい。私の父は証券会社の営業マンでした。今とは時代が違いますが、週末も電話をしているような“ザ・営業マン”でした。話術が巧みで、怒鳴っている姿は迫力があって怖かったです。そんな姿を見て、父には失礼だけど真逆のようなロジカルな仕事がいいと思い、外資系企業やマーケティング系の仕事を探す中で、コダック(当時、日本コダック)に入社しました。

早川: コダックではどんなことをされていましたか?

富永: まずレントゲンのフィルムの事業部に配属になりました。コダックには6年いて、コミュニケーションやプロダクトディベロップメント、プロモーションを経験しました。メディカルのマーケティングは特殊なように思われるかもしれませんが、基礎を勉強できました。レントゲンのフィルムは、用途によってサイズや質が異なり、また顧客によって重視するポイントが異なります。そういったことを理解しながら商品開発に携わり、自分が担当した商品を病院に持って行けることは楽しみでした。

しかし、ある時競合企業がデジタル技術で迅速に様々な好みや用途に対応できる商品を発表しました。これが売れたんですよね。こうして花形だと思っていたアナログフィルムを扱う私の部署は縮小していき、気付いたら人がいなくなっていました。

「いつかリテールのCMOに」きっかけはコカ・コーラ

早川 それが最初の転職のきっかけとなったんですね。

富永:そうです。次に入ったのは、ウェブ・ティービー・ネットワークスという、Appleのエンジニアが作った会社です。テレビと電話線を繋いで家庭用インターネットができるという面白いサービスでしたが事業撤退が決まり、次に日本コカ・コーラ(CCJC)に入りました

日本コカ・コーラは、ずっと入りたかった会社です。マーケティング本部のEベンチャーという小さな部署のポジションでした。そこでは携帯電話を使ったイノベーションと自販機の復権についての仕事をしました。当時は2000年を迎える少し前で、スーパーやコンビニが飲料のチャネルを伸ばし、磐石だった自動販売機の地位を脅かす存在になってきたんです。

その頃はNTTドコモがiモードをリリースした直後で、iモードで買える自販機を作ろうとなりました。しかし、いわゆる自販機メーカーにデザインを依頼したら、大きな携帯電話のオブジェをくっつけたデザイン案が出てきました。「何かが違う」と思うも、当時の私はスキルがなくて違和感を伝えられませんでした。

その時に当時の上司が「この自販機のコンセプトはお金を入れたら商品がゴトンと出てくる“チャリンゴトンのアナロジー(類推、類比)”であるべきだ」と方向性を示したのです。その言葉で納得しました。つまり自販機が携帯電話に寄っていってはダメで、携帯電話が自販機に寄っていく話なんですよね。

この考え方の下では、自販機に通常モードと携帯連動モードの2つを使い分けられるUIが必要でした。そんな我々にコカ・コーラのアイコンである「ダイナミックリボン」(白い波線)を押すと光り携帯連動モードになる、という先進的なアイデアを出してくれたのが、今は亡きゲームクリエイターの飯野賢治さんです。その後飯野さんには自販機だけでなくサイトやモニターに表示されるコンテンツまで全面的にお願いしました。当時としては先進的な面白いものでした。

また、当時キャリアから引き落とせるものは通話料や通信量だけで、コンテンツへの課金は出来ませんでした。そこで着メロや待ち受け画面といったものを自販機で売ったり、そのためのプリペイドを作ったり、といった取り組みもありました。さらに、自販機にプリンターを仕込み映画のチケットを印刷できるような仕組みを作ったりしましたね。

早川: 画期的な取り組みですね。

富永: そうですね。そして、その時の経験によってプロダクト以外のブランドサービスの会社に興味が出てきて、またリテールのCMOを志すきっかけとなりました。リテールのCMOはチームが大きいですし、早く自分のチームを持ちたいとも思いました。

西友のCMOに39歳で就任。仕事観に変化も

富永:そんなことを考えている時、たまたま西友が声を掛けてくれました。そして39歳の時にマーケティング本部長として入りました。

早川:マーケティングの最高責任者ということですね。

富永:そうですね。西友では8年ほどマーケティングをやりました。この8年で仕事観への変化が起きました。登壇依頼や原稿執筆の依頼をいただくようになったんです。西友のマーケティング本部長としての私というよりも私個人への依頼が増え、自分が認められている気がしてとても嬉しかったです。同時に、父がいかに偉大だったのかを思い知りました。リーダーシップや組織を動かす力が凄かったと思い、心で「真逆を目指そうとしたりして悪かったな、親父」と思いました。こうして個のマーケターとしての自分が育ち始め、「次はどこの会社に行こう」と考えることが、キャリア上のワンアンドオンリーの最大のテーマではなくなりました。もっと興味本位にやってみてもいいかなという気持ちになってきました。

早川:それまでは、どこで働くかが大事だったということですか?

富永:給与水準やその会社の社長がどんな人なのか、といったことですね。誤解を恐れずに言うと、自信を持って行動できるようになりました。仕事はもちろん頑張ってやりますが、それ以外に、自分は自分としてあるんだという精神的な支柱が出来た気がしたんです。その後ドミノ・ピザやイトーヨーカ堂を経験し、今に至ります。

「マーケティングは究極的な人間理解」

早川:今のPreferrd Networksはどのような経緯で?

富永:CFOが当時出展していたCEATEC(IT技術とエレクトロニクスの展示会)に呼んでくれたことがきっかけでした。エンジニアと話したらいい印象で、その後週に1回オフィスに行くうちに惹かれ、「来ちゃいなよ」と声を掛けてくれました。

早川:ほとんどの方がエンジニアなんですね。

富永:そうですね。キレキレの若者ばかりです。

早川: これまではB2C企業が多かったかと思いますが、今はB2Bですね。

富永マーケティングは究極的な「人間理解」だと思っています。コミュニケーションやプロダクトディベロップメント、リサーチなど全てにいえることですが、対象となる人のことを理解し、こうボールを投げたらこうボールを返してくれるという反応装置のように位置づけて人間を知り尽くすことが大事。知り尽くしてこそ意図通りのコミュニケーションが出来るし、評価されるプロダクトが出来ると思います。

人間理解をマーケティングとして俯瞰してみると、マーケティングが関係ないものはほとんどありません。例えばうまくいっていないプロジェクトに潤滑油をさす作業もマーケティングだし、クライアントと話すのもマーケティングです。つまり、B2BやB2Cというレイヤーの話ではなく、もう一つ深いレイヤーでマーケティングを捉えるべきだ、と言うことなんですね。

早川:今はPrefferd Networks以外にもたくさんの肩書をお持ちですね。 効果としてはどうだったのでしょうか?

富永:時間を使い分けるようにしていますが、全く違う仕事をしている時でも、そこで得たアイデアや気づきは全部に応用可能です。自分の「持ち玉」やかつて見た「景色の蓄積」がハマっていき、やればやるほど効率があがるように思います。セキュリティや人事制度などハードルは様々あると思いますが、生産性が飛躍に上がると思うので、副業はオススメです。

次回の <後編>では、マーケティングの捉え方や人生のパーパスなど富永氏の考えをお聞きします。


【販促dig!!】
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第2回・前編 情報のデジタル化を進める必要があるのか?小売業販促の課題と解決策
第2回・後編 令和時代をサバイブできる販促の新常識とは? 小売業販促の課題と解決策
第3回・前編 リテール変革プロフェッショナルとしてのキャリアと人生のパーパスとは?
第3回・中編 コンビニは店舗スタッフこそが源。だからマーケティングは社内外で同じくらい力を入れる
第3回・後編 「日本に足りないのはX。本気の変革です
第4回・前編「KPIより”儲かり続ける仕組みづくり”にコミットしたい
第4回・後編 デジタル化の中で、リアル店舗の価値を再定義して資産に変えることが大事
第5回・前編 リテールのCMOを志したきっかけはコカ・コーラ
第5回・後編 「リテールマーケティングは一般的な手法が通じないから面白い
第6回・前編  人を巻き込むスペシャリスト
第6回・後編 週刊ウェビナーは前例がないからやった

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