コラム 販促・集客
【販促dig!!/第4回カインズ 中西 遼氏<後編>】デジタル化の中で、リアル店舗の価値を再定義して資産に変えることが大事

2021年01月19日
※掲載内容は公開日時点の情報です。現在と異なる場合がございます。
このエントリーをはてなブックマークに追加
左: ホストの早川礼   右: ゲストの中西 遼さん

時代の流れと共に変容していく「販促」の在り方。しかし、何が正しいのか、未来はどう進むかの答えは掴みにくいものです。本連載は、そんな疑問の答えを探るべく、販促の最前線にいる有識者をお招きし、幅広い視点から「販促」をテーマに対談形式で語りつくす企画です。

第4回のゲストは、株式会社カインズ デジタル戦略本部の中西 遼氏。大学卒業後、大手総合広告代理店にて主に流通小売業のマーケティング支援に携わり、2018年より国内大手アパレルメーカーで全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進。現在はカインズテクノロジーズ社から出向し株式会社カインズにて、Eコマースのデジタル戦略を担当されています。一貫して「小売×マーケティング」領域で活動されている中西氏がどんな想いでキャリアを築いてきたのか、どんなことを実践してきたのか。

今回も「Shufoo!(シュフー)」の運営会社である株式会社ONE COMPATHの代表取締役社長CEOの早川よりお話をお聞きしました。前編ではキャリア観を中心にお送りしましたが、後編となる本コラムではキャリアの中で取り組まれてきた施策や思想を中心にお伝えします。


社内でDXを推進する難しさ―そもそもアカウント開設のメールを見ていない

早川 礼(以下、早川):国内大手アパレルメーカーであるストライプインターナショナルでのお話からお聞きしたいと思います。全社的なDXを推進されたわけですが、進める上で社内から反発はありましたか?

中西 遼氏(以下、中西):反発はなかったですが、知らないこと・理解できないことに対するアレルギーはあったと思います。時間が解決するのを待ったり、しつこくやろうと思っていました。

小さなことですが、レポートが見られるようにアカウントを発行したのに、1か月後になってそもそもアカウント発行のメールを見ていなかったことが判明した、ってことがありました。「おい!」って思いましたよ(笑)。

早川:うーん。あるあるかもしれないですね。

中西:それでも自分たちでやり切れるところまではちゃんとボトムアップでやろうと思っていました。

ただし、ボトムアップをするときのハードルに、アプローチする人を間違えてはいけないという点があります。

各ブランドマネージャーの要件に達するものを作ることが改善かと思いきや、そうではない。なぜなら、全てを知っているのはブランドマネージャーではなくその右腕の人で、その人がブランドマネージャーのリテラシーに合わせた資料を作っているだけだった、本当に知らなきゃいけなかったのは右腕の人だった、ということもあるからです。

DXを突き詰めていくと、悪しき「人への配慮」を解き明かす一面がある気がします。そのお題目にたまたまデジタルというツールがあるだけだと思うんです。

早川:なるほど。忖度していることもいっぱいあるでしょうしね。

中西:自分自身も悪気はないのですが、やはり上位レイヤーの人間に報告を入れる際は報告書を綺麗にまとめがちです。余計な情報を入れて惑わせないようにという配慮のつもりではいるのですが、こういう親切心がどこかのタイミングでねじ曲がってしまうと、真実が分からなくなり、いろいろとこじれていってしまうということを肌で感じました。

早川:歴史が長い会社ほど上の人間はその積み重ねを判断に活かせたけれど、デジタルが入ってきて一気に分からないことが増えてしまう。分からないことに対して「あとは君に任せたからよろしく」って感じになってしまう。そういうところはあるでしょうね。

中西:人間が仕事をする以上やむを得ないとも思います。でも、忖度でレポートが省かれたから情報管理ができない、だからこのツールを入れます、って結局元の木阿弥ですよね。そこにある種の気持ち悪さを感じていました。

広告の商品じゃなくてデイリーランキング1位の商品が買われている真実

早川:いろいろなハードルがあったかと思いますが、楽しかったことといったら何でしょう?

中西お客様の反応というか、ダイレクトにレスポンスが返ってくるところは楽しかったです。サイトに何人来たとかコンバージョンしたっていうだけじゃなくて、実際に何を買ってくれたかまで分かるし、それがリアルだと思いました。代理店時代は「広告に対するコンバージョンは――」と言っていましたが、よくよく見たら広告の商品は買われてなくて、デイリーランキング1位のものが買われていた、という(笑)。
そういうところに真実があると思いました。

早川:お客様の声を聞くという意味では、デジタル以外ではどんな施策をされていたんですか?

中西:定期開催するファンミーティングなど、イベントが多かったですね。

それから、事業主サイドとして、自社ブランドをどうメディアに伝えるかのブランドストーリーを作ることも。作るとき、必ずしも課題から入らないんです。例えば、女性誌にどう紹介してもらうかという時に「自分たちをどう定義するか?」を考えるとか。それは楽しかったし、いい経験になりました。

早川:オムニチャネルの取り組みはいかがでしたか?

中西:枠組みとしてのオムニチャネルは、店舗からどうやって会員獲得するかを徹底していました。アパレルなのでブランドごとに対応する年齢層がありますが、テイストや年齢が変わってもブランドスイッチを起こしてずっと会社のファンでいていただきたいので、そのための施策をやっていました。

リアル店舗こそ、獲得コスト効率が最も良い

早川:アパレルでは店舗からECに送客するのが基本動線ということでしょうか?

中西:そうですね。理由はいくつかあると思いますが、単純に店舗が一番獲得コストが安いと思います。

もちろん場所にもよりますが、一定以上の金額を出稿すると仮定したらどんな広告より安いと思います。ユニクロさんは、既にたくさんの店舗がありますが、まだ店舗を出すわけですよね。
それって出せば売れるってことだと思います。

購入ではなく、店舗来店までを課金ポイントとしたGoogle広告を配信しても、大抵の場合予算が消化できないか、同じ人に何度も広告が当たるだけの施策になってしまう。

もちろん、広告と違って店舗は固定費なので軽々と出せるものではないという問題はありますが、お客様の目に触れる所に自社を出し、誘客するという行為なら店舗のほうが獲得コストは安い。それに、店舗の場合はコンバージョンしますしね。

早川:商品までの距離が短いですしね。

中西:そうです。最近ショールーム型の店舗もありますが、あれにも課題を感じています。

お客様をしっかり把握できるIDのデータベースと、そこに届けられるMA(マーケティングオートメーション)の整備、効果効率を測定できるモニタリングの整備。これが全部あった状態で店舗をショールーム化するのはありだと思います。コンバージョンがお客様のメールアドレスやIDの確保だからです。

米国で見聞きするD2Cのオフライン出店の大半もこのバリューチェーンのデータがかなり整備されています。
日本の場合、ショールーム化が目的化していたり、ショールームの後の体験がただ単にECを勧められたりするだけで、企業としてお客様を先々まで接客する環境がないケースが多いと感じます。

それなら、購入も出来てブランディングも立てやすいフラッグシップやポップアップストアでいいし、「店舗」という業態の価値の置き方がちょっとズレて入ってきている気がします。 デジタル化を進めるという命題の元に、いろいろな施策があるのは理解していますが、オムニチャネルというワード自体もリアル店舗を主とする企業のデジタル化の文脈での話ですし、リアル店舗の売上以上にECが売れている小売業は今のところないはずなので、「店舗」という業態を旧態と捉えず、価値を再定義して資産に変えることが大事であると現場から感じています。

ホームセンターのSKUは莫大。だから商品ポートフォリオが大事

早川:では現在のお話をお聞きしたいと思います。カインズでは商品ポートフォリオのマネージメントをされているとのことですが、もう少し詳しくお聞きできますか?

中西ホームセンターはSKUが莫大です。
アパレルと比較すると10倍以上なんてこともあります。資材からインテリア用品まで様々で、配送の要件定義が難しいのが特徴です。

ECでは、特殊物か特殊物じゃないかをきちんと仕分けないと、粗利が配送コストに負けて赤字になってしまうんですよね。なので、利益になるパターンや赤字のパターン、何かを足せば黒字になるっていうパターンなど、ヒト・モノ・カゴ・ハコのバランスを考慮してデータとして分析することが大事です。

都心に店舗を作るのは簡単ではありません。マーケティングのパイとして、そこは1つの問題です。

ですが、都心のお客様はカインズのPB(プライベートブランド)商品を買ってくれます。店舗で買うのが大変な重たいものなどはもちろんですが、都心に店舗がないのにカインズのPB商品を買ってくれるということは、商品に価値があるからだと思っています。

商品に価値を感じていただけているのであれば、事業構造がお客様によいサービスを提供しながらも利益を出し続けられる構造にさえなれば、店舗を出店せずとも店舗並みの売上を出しつつ、更に発展したサービスを展開していくことも可能です。 だからこそ、一つ一つの購買にデータを軸に向き合っていくこの仕事は重要であると認識しています。

パートナー企業の若い人たちとたくさんいい事例を作っていきたい

早川:最後に、私たちのようなデジタルメディアにメッセージをいただけますか?

中西:事業会社内では、社内で知識格差が出たと分かった時に、第三者から啓蒙が入りきちんと認識を合わせて足並みを揃えられる状態に持っていくことが大事だと思います。

こういう状況のパートナー会社様の知見は非常にありがたいですし、他の会社の情報を入れてもらうだけで世界が広がりますよね。
だからいろんな会社を担当されている人と仕事が出来ると嬉しいですね。目新しいことは必要なくて、世の中の共通認識はこうですよって言ってくれることの方が大事。

それを、いかに会社の温度感に合わせて伝えてもらえるか。そうすると信用に繋がると思います。

早川:パートナーの言葉の定義ってありますか?

中西:月並みですが一緒に死んでくれる人(笑)。というのはいささかことばが強いですが、時には「それはさすがにないんじゃない」と提言し、やると決めたからには最後まで付き合ってくれる方、でしょうか。

例えばクライアントが言っていることが正しいとは限らないわけです。だから、その中身をさばいてほしい。熟練の経験者ならやれると思いますが、業界的に若い人も増えていますから、私たちにどう向き合ってくれるか、個人的にも楽しみです。

僕は今年30歳になりますが、それこそこれから頑張らなきゃいけない若手の部類かと思います。盛り上がりを作れるパートナーサイドの若い人たちと、いい事例をたくさん作っていけたらうれしいです。

早川:ありがとうございました。


取材協力

株式会社カインズ
群馬県発祥のホームセンターチェーン企業。全国に200以上の店舗を構え、多彩な品揃えと個性豊かなPB品の販売に注力している。2019年度売上高4410億円。
http://www.cainz.co.jp/

【販促dig!!】
第1回・前編 リアル店舗の販促にも活きるデジタル販促の「今」とは? デジタルを使った販促の可能性を探る
第1回・後編  「このお店をリピートしたい」と思わせるためのデータ活用方法とは? デジタルを使った販促の可能性を探る
第2回・前編 情報のデジタル化を進める必要があるのか?小売業販促の課題と解決策
第2回・後編 令和時代をサバイブできる販促の新常識とは? 小売業販促の課題と解決策
第3回・前編 リテール変革プロフェッショナルとしてのキャリアと人生のパーパスとは?
第3回・中編 コンビニは店舗スタッフこそが源。だからマーケティングは社内外で同じくらい力を入れる
第3回・後編 「日本に足りないのはX。本気の変革です
第4回・前編「KPIより”儲かり続ける仕組みづくり”にコミットしたい
第4回・後編 デジタル化の中で、リアル店舗の価値を再定義して資産に変えることが大事
第5回・前編 リテールのCMOを志したきっかけはコカ・コーラ
第5回・後編 「リテールマーケティングは一般的な手法が通じないから面白い
第6回・前編  人を巻き込むスペシャリスト
第6回・後編 週刊ウェビナーは前例がないからやった

あなたに合った集客方法をご提案します

ページトップへ