コラム 販促・集客
【販促dig!!/第3回 植野大輔氏<中編>】コンビニは店舗スタッフこそが源。だからマーケティングは社内外で同じくらい力を入れる

2020年10月07日
※掲載内容は公開日時点の情報です。現在と異なる場合がございます。
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左:ホストの早川礼 右:ゲストの植野大輔さん

時代の流れと共に変容していく「販促」の在り方。しかし、何が正しいのか、未来はどう進むかの答えは掴みにくいものです。そんな疑問の答えを探るべく、販促の最前線にいる有識者を招き入れ、幅広い視点から「販促」をテーマに対談形式で語りつくす企画です。

第3回のゲストは、DX JAPAN代表の植野大輔氏。新卒入社した三菱商事時代にローソンに出向しPontaポイントの立ち上げを経験、ファミリーマートではファミペイの立ち上げを主導するなどコンビニチェーンを中心に八面六臂の活躍を見せる、リテール変革領域の第一人者です。

そんな植野氏に、「Shufoo!(シュフー)」の運営会社であるONE COMPATH 代表取締役社長CEOの早川が、キャリアやリテール・マーケティングの事例や未来について、たっぷりとお話を伺いました。前回は植野氏のキャリアについてお聞きしましたが、<中編>となる今回は、実際に植野さんがマーケティング領域で行った事例を中心にお送りします。


早川礼(以下、早川):ローソンやファミリーマートでデジタルを含めたマーケティング領域を経験されてきたかと思いますが、その中でご自身が大事にされていることはありますか?

植野大輔氏(以下、植野) :私は、ファミリーマートに来るまでは、自分のことをずっと戦略論者だと思っていたんです。「組織は戦略に従う」と言う言葉を本気で信じていました。一方で、「組織が戦略を規定する」という考え方もあります。実務をやればやるほど後者です。間違った戦略を進めることほど愚の骨頂はありません、これだけは絶対にやってはいけない。しかし、正しい方向へ前に進むなら、別に右だ左だと考えすぎて止まるより、とにかく右か左か選んだ方で必死にうまくやる、これが実務家としての正直な感覚です。じゃあ、うまくやってくれるのは誰なのか、組織の人々です。

早川: 特に小売の現場だと、いかに理解してもらうかが大事だと思います。

植野:本当にそうです。小売とは、商品の品揃えと接客サービスがコアの提供価値であり、ラストアンカーである店舗スタッフがとても大事です。飲食店のスタッフは調理、ホールと分業制ですが、コンビニ店舗のスタッフはジェネラリストで、レジはもちろん商品の補充もファミチキを揚げるのも同じ人で、小さな空間で全てやっています。ですから、コンビニは数人の店舗スタッフ次第で、お店は大きく変わります。

早川:そうですね。

150回の店員向け説明会で全国行脚!インターナルマーケティングに力を入れる

早川: 植野さんは実際に店舗スタッフの理解促進のために、全国を回ったとお聞きしました。

植野: ファミペイ、ファミマのデジタル戦略の説明会を、店舗スタッフ向けにやりました。これはどのコンビニチェーンでもやっていると思うのですが、東京ビッグサイトや幕張メッセのような会場を貸し切って、お店スタッフ向けの展示会みたいなイベントを全国でやるんです。北は北海道から南は福岡まで全国に出向いて、1日1,500名ほど来場される加盟店オーナーや店長、アルバイトの方達に向けて、デジタル戦略の方針発表を繰り返しました。数えてみると、1年間で150回以上、ステージにあがっていました。

早川:では、現場の方への理解という意味で他に力を入れたことを教えてください。

植野インターナルマーケティングは、エクスターナルと同じくらい時間をかけました。まず店舗スタッフとのタッチポイントになり得るメディアを洗い出しました。具体的には、広報誌、最新トピックを伝えるお店向けの動画ニュース、オペレーション解説動画に、店舗マニュアル、などなど。これらのタッチポイントで、いつどういう情報を発信して、全国に“うねり”を作り出して行くか、外部向けのマーケティングプランと同じレベルで練りまくりました。例えば、オペレーション解説動画には、社長である澤田さんに出てもらって、ファミペイの使い方を解説してもらったり、毎週配信される動画ニュースでは「オリジナルキャラクターの名前の発表」や「ファミペイまであと2週間」と言うカウントダウン企画など、常にファミペイの情報を発信し続けました。お店向けの広報誌は、学生や外国人の方にも読んでいただくものなので、真面目すぎたらダメだと考え、オリジナルキャラクターの「ファミッペ」が登場する楽しい漫画を掲載しました。

早川:丁寧にコミュニケーションをとってきたんですね。

理解から自発的な行動へ―草の根的な広がりから手応えを実感

早川:様々なインターナルマーケティングを実施されて、社内が変わっていく手応えはありましたか?

植野: ありましたね。それまで「ファミペイ」に慎重だった方も、ファミリーマートはデジタルをやるんだっていう熱気が伝播して行ったと思います。お店を管轄するSV向けのテストもやりました。「ファミペイ理解度テスト」です。すると、テストを活用してSVの皆さん達が店舗スタッフ向けの勉強会をやろうという動きが、自然に湧き上がりました。すると、次は外国人社員が自発的に勉強会資料を中国語やベトナム語など多言語に翻訳してくれて、Gsuiteのクラウドに上げてくれたこともありました。このように草の根的に広がって行くので、「いける!」と手応えを感じていました。

早川:自発的な行動ですね。社内でかなり有名人になったのでは?

植野:すっかり「ファミペイの人だ」って思われたみたいですね。ファミペイがサービスインしてから、プライベートでファミマに買い物に行っても、「店長、ファミペイの人来てるよ~」って店舗スタッフの皆さんに言ってもらえるようになりました(笑)

早川:過去の植野さんのインタビューを拝見すると、「お財布のいらないファミマ」「お財布レス」といった言葉がよく出ていますが、端的で分かりやすいですね。この言葉は戦略的に発信されたんですか?

植野:そうですね、自分で考えました。実は、他社のバーコード決済を、ファミペイより前の2018年12月に、コンビニ業界ではファミリーマートが初めて導入しました。ただ、実際に使ってみると、Tポイントカードを出したり、クーポンを使おうとすると、お財布と携帯電話の両方が必要で、なかなか面倒に思いました。お財布がいらない状態を作らなきゃいけないと思って「お財布のいらないファミマ」「お財布レス」といった言葉を発信していました。

今後の小売は、店舗の外まで責任を持つこと

早川:小売業界の今後について、コロナの影響を受けて変わるところと変わらないところ、変わらなければならないところとあると思いますが、どのようになっていくべきだとお考えですか?

植野:デジタルを活用すると、お客様とのタッチポイントが、店頭だけではなく店舗の外にも出来て、お客様とお店の外でも繋がることができます。今後は店舗の外まで責任を持って、購買体験やブランド体験をどうグランドデザインするかが必須と考えます。

ただ、多くの企業が、安易なデジタル化に目を奪われすぎているように思います。「Amazon GO」というテクノロジーは本当にすごいですが、Amazon Goで売られている商品がダメだったら、レジが無人でも買い物したくないですよね。だからいくらデジタルやアプリだけ頑張っても、商品やサービスをそれ以上に頑張らないと意味がない。アプリも大事ですが、もっと大事なのは商品やサービスです

次回の <後編>では、リテール業界の今後についてお送りします。


取材協力

DX JAPAN
日本から本物のDX企業10社を生み出すべく、  
圧倒的な実務家目線で、デジタルを中心とした企業変革を支援
http://dxjpn.com/

【販促dig!!】
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第3回・前編 リテール変革プロフェッショナルとしてのキャリアと人生のパーパスとは?
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第3回・後編 「日本に足りないのはX。本気の変革です
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