コラム 販促・集客
【販促dig!!/第3回 植野大輔氏<後編>】「日本に足りないのはX。本気の変革です」

2020年10月14日
※掲載内容は公開日時点の情報です。現在と異なる場合がございます。
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左:ホストの早川礼 右:ゲストの植野大輔さん

時代の流れと共に変容していく「販促」の在り方。しかし、何が正しいのか、未来はどう進むかの答えは掴みにくいものです。そんな疑問の答えを探るべく、販促の最前線にいる有識者を招き入れ、幅広い視点から「販促」をテーマに対談形式で語りつくす企画です。

第3回のゲストは、DX JAPAN代表の植野大輔氏。新卒入社した三菱商事時代にローソンに出向しPontaポイントの立ち上げを経験、ファミリーマートではファミペイの立ち上げを主導するなどコンビニチェーンを中心に八面六臂の活躍を見せる、リテール変革領域の第一人者です。

そんな植野氏に、「Shufoo!(シュフー)」の運営会社であるONE COMPATH 代表取締役社長CEOの早川が、キャリアやリテール・マーケティングの事例や未来について、たっぷりとお話を伺いました。<前編>は植野氏のキャリアについて、<中編>は事例を中心にお送りしましたが、<後編>となる今回は、リテール業界の今後についてお送りします。


本気でDXする会社を10社作りたい

早川礼(以下、早川): 植野さんの会社は「DX JAPAN」という社名ですが、社名に掲げた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」について、実現したいことをお聞かせください。

植野大輔氏(以下、植野) : DX JAPANのパーパス(存在意義)は、企業規模は関係なく本気でDXする会社を10社作りたい、ということです。しかし、DXは、デジタル担当者と経営陣の間に、大きなギャップがあると感じます。特に経営陣が、デジタルをある種の幻想のように捉えられているんじゃないかな、と。自分の会社の名前に「DX JAPAN」とつけておいてなんですが、本音では「DX」という言葉が幻想を生み出しているとすら思います。いっそDXからD(デジタル)の文字をとりたいぐらいですね。日本に足りないのはDじゃなくてX、「変革」の方。今、多くの企業に必要なのは、デジタルと言う言葉に惑わされず、本気で会社を「変革」しに行くことのはずです。

御社のように、本業を破壊しかねない事業をやられるのは、これぞ変革ですよね。紙が減少していく中で、Shufoo!の事業が、将来は本業をカバーできるようになる。この変革にリソースをつけていくことが大事ですよね。

早川: 確かにDXという言葉は幻想のように捉えられているように思いますね。DXしたいとは言うものの「何を変えたいか」が後付けになることが多いように思います。

植野:そうですね。やはりお客様に何を提供したいのかだったり、さらには社会に対して何のために会社が存在しているのか、を突き詰めることが大事だと思います。

ローコストオペレーションを実現することが大事

早川: まさにパーパス(存在意義、目的)から逆算で考えないと、ですね。今後5年や10年を考えた時にリテールの課題は何だと思いますか?

植野: コロナの影響で、東京が転入よりも転出が多くなったというニュースもありましたが、これまでの密集ではなく、分散に価値が置かれる時代になって来ましたよね。すると、以前のように人々が密集した商圏ではなく、人々が分散している商圏でも、しっかり利益の出るお店づくりをしなくてはならない。商圏内のお客様の数が少ないと、売上は限界がありますから、店舗のローコストオペレーションを実現することが大事だと思います。家賃を抑えたり、オペレーション効率を上げて人件費を抑えたり、物流も効率化できる余地は大きいはずです。ローコストオペレーションでしっかり収益力のある店舗を維持した上で、そしてもちろん商品が強ければお客様は増えて、アップサイドを作れます。

早川:商品と言えば、コンビニでは予約販売など廃棄を減らすための取り組みをされていますよね。

植野:これは少し注意して聞いて頂きたいのですが、出した廃棄を無駄に捨てることが問題なのであって、何か別のことにしっかり再活用できる仕組みがあれば、一定のリサイクルは容認したいなと、私は思っています。かつての恵方巻のような大量廃棄は御法度ですが、一方で廃棄完全ゼロを目指すと、来店するお客様のために、しっかり品揃えすることが、難しくなるんです。それって、品切れですから。出てしまった廃棄対象の商品を、地域コミュニティに寄付したり、飼料や肥料などに活用するサイクルを生み出すことが、大事ですね。

異常な熱気がデータを超えるイレギュラー値を叩き出した

早川:そこを最適化するのはやはりデータでしょうか。

植野:データによる需要予測もあると思います。ただ、データだけで需要予測が完璧にできるかというと、必ずしもそうでもないと思います。私がマーケティング本部長時代にやった大規模施策で「ファミチキ VS 炭火焼きとり」という企画がありました。期間中に多く売れた方の商品で、次に過去最大級のセールを行う、というものでした。結果的に炭火焼きとりが勝って大セールを実施しましたが、通常と比べてどれくらい売れたと思いますか?

早川:2倍くらいですか?

植野20倍です。ものすごく売れました。キャンペーン1週間前は、社内もお店もみんな焼きとりの話をしていました。期間中にアルバイトスタッフを増やした店舗や、自発的にビラやPOPを作る店舗や、カウントダウンをする店舗もありました。あの時のテンションや熱量はすさまじく、その異常な熱気がデータなんか吹っ飛ぶようなイレギュラー値を叩き出したんです。AIに算出させたとしても、20倍という値は出るわけがありません。データは偉大なる前例踏襲でしかないからです。需要予測でデータだけを過信するのは、危険です。

早川: 確かに。熱量が伝わってくるような気がしました。20倍はすごい数字ですね。

工場・店舗・広告がいらない時代が来る

早川: 今後のリテール領域について、大事だと思われるポイントを教えてください。

植野: 魅力的な商品があるだけではなく、品揃えやサービスなど、しかもリアル店舗とデジタルで、トータルの価値を提供しなければならない、ということでしょうか。そのお店ブランドならではの、お買い物体験やブランド体験を磨いて、選ばれるお店にならなくてはいけません。

今、工場・店舗・広告がいらない時代が来ると言われています。既に工場を持たないファブレス企業もありますし、OEM(他社ブランドの製品を製造すること・企業)という手もある。デジタルを通じて作り手から直接商品が届くD2Cなら、店舗はいらなくなってしまう。作り手が直接SNS上で買いたい人達とコミュニケーションをとると、広告宣伝はいらない。そのとき、リアル店舗を持つ小売企業は、どんな価値を出すのか?ライバルとの前年日商対比の競争ばかりに目を向けるのではなく、今こそ小売企業は、この潮流を真摯に考え続けなくてはならないと思います。

早川: そういう時代に自分たちの未来も考えなくてはと思います。では、我々のようなメディアに近いプレイヤーに対して期待することは何でしょうか?

植野社会課題に対してどう価値を出していくのか、そこを真正面から取り組む企業が、とても大切になって行く時代です。そんな企業の商品、サービスをブランド体験も一緒に伝えていただけるようなパートナーになっていただけたらと思います。

早川:Shufoo!というプラットフォームを提供する側として、しっかり考えていきたいと思います。この度はありがとうございました。

植野:ありがとうございました。


取材協力

DX JAPAN
日本から本物のDX企業10社を生み出すべく、  
圧倒的な実務家目線で、デジタルを中心とした企業変革を支援
http://dxjpn.com/

【販促dig!!】
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第2回・前編 情報のデジタル化を進める必要があるのか?小売業販促の課題と解決策
第2回・後編 令和時代をサバイブできる販促の新常識とは? 小売業販促の課題と解決策
第3回・前編 リテール変革プロフェッショナルとしてのキャリアと人生のパーパスとは?
第3回・中編 コンビニは店舗スタッフこそが源。だからマーケティングは社内外で同じくらい力を入れる
第3回・後編 「日本に足りないのはX。本気の変革です
第4回・前編「KPIより”儲かり続ける仕組みづくり”にコミットしたい
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第5回・前編 リテールのCMOを志したきっかけはコカ・コーラ
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