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災害からお客様とスタッフの命を守るため、救助道具・応急手当・防災備蓄を準備しよう【災害対策シリーズ・第8回】

2020年03月30日
※掲載内容は公開日時点の情報です。現在と異なる場合がございます。
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有事のときに本当に“いいお店”かどうかが分かる。お客様、スタッフ、そして店舗を守るための災害対策シリーズ、第8回は前回に引き続き「災害からお客様とスタッフの命を守る」ための準備を紹介します。前回は考え方や計画策定のポイントをご紹介しましたが、今回は「モノ」の準備をはじめとする物理対策が中心です。

「救助道具」を準備する

さて、「第5回」「第6回」で紹介した万全な地震対策を行っても、地震の規模や揺れ方、対策の状況によっては、スタッフやお客様の負傷を完全にゼロにすることはできません。そのため、店内で被害が発生した場合の準備も必要となります。

店舗で準備したい救助用品リスト

まずは「救助用品」を準備してください。

項目 用途・準備のポイント
バール テコの原理で重量物を持ち上げたりする場合に利用するなど、多目的に使える万能救助用品。価格も安いため90cm以上のものを複数本準備しておくとよい。
ジャッキ 重量物を強制的に持ち上げて隙間を作るために利用。事前に使い方などを確認しておくことが必要。自動車などに搭載されているものがあればそれでも可。

斧(アックス)や

ハンマー

ドアが歪んで開かなくなった、倉庫や小部屋に閉じ込められた、転倒物を破壊しないとどかせない…など、何かの理由で「破壊」をしなければならない場合に利用。
手袋 重量物やガレキ除去、ガラスの撤去などを素手で行うのは危険なので手袋を準備。滑り止め付きの作業手袋革手袋が頑丈でおすすめ。軍手にする場合は滑り止めのゴム付きのものを選ぶ。
ライト 停電時に作業する場合に必須。両手をあけられるヘッドライトタイプのものが便利。夜間は救助以外にも必要になるため、同時に店内にいるスタッフ人数分があるとよい。

具体的には上記の5点を必須として、その他余裕があれば、スコップ・つるはし・ロープなどがあってもよいでしょう。

これらを箱や移動用バッグに入れておき、すぐ取り出せる場所に保管しておきます。間違っても転倒しやすい棚などに入れて、救助用品が要救助対象にならないように気をつけましょう。

クラッシュ症候群を避けるために短時間で救助する

救助用品が必要な背景として「クラッシュ症候群(クラッシュ・シンドローム)」というものがあります。

倒壊した建物や転倒した什器に体の一部を挟まれた際、そのままの状態で2時間以上の時間が経過すると、圧迫箇所でカリウムやミオグロビンなどの毒性物質が発生するとされています。この状態で救助されると、圧迫が解消された際に毒素が血流に乗って全身を巡り、ショック死する恐れがあるというものです。

クラッシュ症候群を防ぐには、人工透析をしながら救助活動を行わなければなりませんが、非常時には(平時であっても)難しい対応となります。そのため、短時間で救助をすることが重要なのですが、大地震発生時はレスキューや自衛隊もすぐに身動きが取れないため、店舗内部だけで救助活動を行わなければならず、道具が必須となるのです。

参考:
日本内科学会|災害時の圧挫症候群と環境性体温異常
https://www.naika.or.jp/saigai/kumamoto/atsuza/
時事メディカル|災害時、生還からの突然死クラッシュ症候群とは
https://medical.jiji.com/topics/538?page=1

応急手当用品を準備する

救助用品とあわせて準備が必要なものが「応急手当用品」です。

ばんそうこう・止血パット・滅菌ガーゼ・包帯・三角巾・副木(骨折用)・消毒薬・軟膏・目薬・解熱剤・鎮痛剤といった、いわゆる救急箱に入れておく道具を準備しておきます。平時であれば、ケガ人が発生した場合は119番通報をして救急車を呼ぶことができますが、大地震などの災害時には救急車を呼べない、あるいは呼んでも出動できなくなっている可能性があるためです。

また、心肺蘇生に必要なAEDについても調達をしておきます。店舗で直接導入をする場合は購入かリースになりますが、それなりに高額な機材でかつメンテナンスや消耗品の入れ替えの手間もかかりますので、オススメはリースによる設置です。

店舗で準備をしない場合は、近隣の公共施設や大規模チェーン店などでAEDが設置されている場所を把握しておき、必要な場合に「どこに行けばAEDを借りられるのか」を把握しておくとよいでしょう。

災害時は病院で手当を受けられない可能性がある

災害の規模が大きい場合、被災地の医療機関では「トリアージ」と呼ばれる優先順位付けが行われます。歩いて病院に来た人や、自力では歩けないが意識がある人の治療は後回しとなり、歩けず意識もないなど、今治療しなければ命に関わるような負傷者の受入が最優先となります。

この場合、普段は重症である骨折や縫合が必要なレベルの切り傷「程度」では、自力で病院へ行っても治療を受けられない可能性があるため、最低限の応急手当を店内で行えるようにしておく必要があるのです。

また、応急手当も心肺蘇生も、ぶっつけ本番で行うことは困難です。店舗の防災対策の一環として、消防などが無料で行っている普通救命講習などをスタッフが受講しておくといった、スキルを学ぶ対策も有効となります。

スタッフの命を守る防災備蓄とは?

防災対策に欠かせない「防災備蓄」ですが、命を守るという視点では2つの意味をもっています。ひとつはBCPではなく家庭の防災において、避難所生活や自宅で在宅避難をした場合の「災害関連死」を防ぐ準備としての備蓄。そしてもうひとつが、BCPにおいて「スタッフの徒歩帰宅による死傷」を防ぐための準備です。

大地震が発生すると都市部は危険地帯になる

東京・大阪・名古屋などの大都市で大地震などの災害が発生すると、大きな被害が生じます。例えば、ブロック塀・自動販売機・電柱などの転倒、余震によるビルの外壁やガラスの落下、大規模な地震火災(延焼火災)の発生、大量の帰宅困難者が路上に溢れることで生じる群衆なだれ(圧死)の発生などが想定されています。

停電が発生している場合は、夜間になると都市の照明が全て失われ、明かりがなければ身動きが取れなくなります。また、断水などが発生すると、徒歩帰宅途中に公共施設やコンビニなどでトイレを利用することもできません。さらに、道中の避難所は地域住民で溢れるため、帰宅困難者は支援をほとんど受けられません。この状況で店舗スタッフが歩いて帰宅をしようとしたらどうなるでしょうか。

徒歩帰宅を防止するための帰宅困難者対策条例

例えば東京都などは、首都直下地震の発生時に、企業がスタッフを徒歩帰宅させると大量の死傷者が発生することを想定しています。これに対して「東京都帰宅困難者対策条例」を定め、企業に対してスタッフを徒歩帰宅させない準備を行うことを、努力義務として課しています。具体的には以下のような内容です。

● 建物(店舗)の地震対策を行うこと
● 防災備蓄品を用意して、最大3日間程度スタッフを帰宅させない準備をすること
● スタッフと家族間の安否確認の仕組みなどを用意して、スタッフの帰宅を留まらせる準備をすること

この条例に対する罰則規定はありませんが、店舗が都市部にあり、スタッフの多くが鉄道などの公共交通機関で通勤している場合は、「命を守るため、帰宅させないための防災備蓄」が必要になるのです。

同時に店舗にいるスタッフの人数×3日分を目安に、水・食料品・簡易寝具・非常用トイレなどを準備しておくとよいでしょう。

まとめ

事業を守り営業を継続するためのBCPは、まず店内に犠牲者がいないことが前提となります。非常時の営業計画を立てても、死傷者多数という状況では運営がままなりません。非常時の業務環境を構築するためにも、ぜひ「命を守る防災」から実施してください。


執筆者:ソナエルワークス代表 
    高荷智也(備え・防災・BCP策定アドバイザー)
「自分と家族が死なないための防災対策」と「企業の実践的BCP策定」のポイントをロジック解説するフリーの専門家。大地震や感染症パンデミックなどの防災から、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝えるアドバイスに定評があり、講演・執筆・コンサルティング・メディア出演など実績多数。著書に『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』など。1982年、静岡県生まれ。

【災害対策シリーズ】
第1回 防災だけじゃだめ?店舗に“今こそ”必要なBCP・事業継続計画とは?
第2回 大規模停電、店舗としてできる停電対策は?
第3回 2019年は大地震3回・大規模台風2回。過去を振り返り、店舗を守る対策を学ぶ
第4回 地震対策から保険の見直しまで。2020年に向けて行いたい事前対策とは?
第5回 大地震に備える店舗の対応/前編~転倒・移動・落下・飛散対策には?~
第6回 大地震に備える店舗の対応/後編~二次災害と被害後のためにできること~
第7回 災害からお客様とスタッフの“命を守る”ための準備とは?
第8回 災害からお客様とスタッフの命を守るため、
    救助道具・応急手当・防災備蓄を準備しよう

第9回 台風・大雨被害に備える!ハザードマップで店舗の想定被害を把握しよう
第10回 台風・大雨時の情報収集の方法と店舗と命を守る水害対策

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